| 媒体名 | 日経ビジネス |
| 発行日 | 2004年02月16日号 |
| タイトル | 粗利を稼ぐ丸井へ変革 |
| サブタイトル | PB強く、大人も攻める |
| 本文 | 丸井は来店客の72.3%を30歳未満が占める。百貨店最大手の高島屋はそれが約15%で、客層が全く異なる。流行に敏感な若者が月賦で購入してでも欲しがるような「スター商品」をいち早く発掘し、分割払いで集中的に売る──。丸井はこうした「単品突破」の成功体験を重ね、これまで小売業で独自のポジションを確立してきた。 ソニーの社史にこんな一節がある。1979年に同社が発売した「ウォークマン」のヒット秘話を綴ったものだ。 「こうなるのを早くから、もしかすると盛田(昭夫氏=ソニー創業者)以上に見抜いていたかもしれない人たちがいた。それはデパートの『丸井』の若い購買担当者たちだ。彼らはウォークマンが秋葉原あたりの量販店、特約店、ひいてはソニーの営業サイドにさえ半ばそっぽを向かれていた頃、『これは絶対に売れるよ』と言い切り、1万台の注文を出していた。(中略)若い感性で『絶対いける』と確信を持っていたのである」 じわり忍び寄る同質化の影 流行に対する丸井の感度の高さとフットワークの軽さは、ブランドショップの誘致でも力を発揮した。80年代の「DC(デザイナーズ・キャラクターズ)ブランドブーム」は典型だ。資本力がなくても新しく個性的な服を作るアパレルメーカーを店に取り込み、丸井を“流行の宮殿”に変えた。 この流れを受け継ぐのなら、今、丸井の店頭にはDVDレコーダーや薄型テレビなどのスター商品が大量陳列されているはずだ。しかし丸井は昨年8月、電化製品の販売から撤退した。家電量販店の台頭による値引き合戦で採算性が悪化、赤字が続いていたためだ。単品突破に手詰まり感が出ている。ショップの誘致にしても、力をつけたアパレルメーカーは、若者向け品揃えの強化を狙う百貨店や駅ビルにも出店していった。新規ブランドの獲得競争でも、より有利な条件を提示した駅ビルなどの後塵を拝する場面が増えた。他社との「同質化」という影も忍び寄る。 丸井の小売部門の売上高営業利益率は3.4%(2003年1月期連結)。1%を割る企業もある百貨店業界と比べ、一番高い水準だが、ハウスカードの購買比率が年々低下、儲け頭の金融事業に不安の種が芽生えつつあるだけに、売り場で儲ける力をつけることが急務だ。家具から出発した丸井は絶えず業態イノベーションで壁を突き破ってきた。新たな収益モデルへの挑戦がファッションの街、神戸でも始まった。 好調な「神戸マルイ」は初年度から黒字の見込みだ 「単品突破」で若者消費をリード 「丸井さん? 百貨店じゃないですよね」。大手百貨店の幹部に丸井について尋ねると、こんな言葉が返ってくる。丸井がファッションなど専門分野に特化している業態という認識だけでなく、そこに、どことなく「格が違う」といったニュアンスがにじむ。丸井は日本百貨店協会ではなく、大手スーパー各社が加盟する日本チェーンストア協会の一員だ。 1967年「世界の一級品」 70年代後半〜80年代前半「エアコン」 80年代前半「ウォークマン」 93年「Gショック」 「ハウスカードだけでなくて、インポートバッグもなしで戦うのか」──。神戸マルイの海老原幹也店長は、開店準備室の責任者に就任した2003年2月、本社から新店の営業方針を聞き、気持ちを引き締め直した。 神戸マルイは420人いるスタッフのうち、390人が丸井での勤務経験がないスタッフで開業した。「カードを勧めるには経験や技術が必要。接客に集中するためにもカード募集をしないことは賢明だった」と言う海老原店長も、 海外ブランド直営店との競争を避けるため、インポートバッグを置かない戦術には不安を感じた。前任の店では、バッグ販売高の60%が並行輸入の「ルイ・ヴィトン」だった。「従来のように、『バッグ部門の30%以上をインポート品で稼ぐ』という計算が立てられなかった」(海老原店長)。 ところが、蓋を開けてみるとうれしい誤算が起きた。バッグ売り上げの上位3ブランドのうち、2つが丸井のPB(プライベートブランド)だったのだ。「OLの通勤シーン」を想定した「アールユー」と、婦人向けカジュアルの「タスタス」である。丸井のPBは、自社で商品を企画し、デザインを起こす。「ファッション感度の高い神戸でPBが認められたのがうれしい」と海老原店長の表情も緩む。 「売り場1坪当たりの粗利をいかに増やすか」(青井社長)という収益性の向上と、若者に支持される感度の高いファッション性、そして、丸井がこの先も丸井であり続けるための他店との同質化の回避。この命題に対する突破口を丸井は、商品と売り場の改革で切り開こうとしている。 商品戦略の要はPBだ。アパレルメーカー品より粗利が大きいうえ、独自性を発揮できる。丸井が自社で商品を仕入れ、販売する売り場の売上構成比率は現在47%。うち8%がPBによる売り上げだ。9ブランドで展開しているPBの比率を早期に10%台に乗せ、将来20%にまで高める。 PB軸に水着商戦独り勝ち 小売り各社が冷夏に泣いた2003年、丸井は水着販売実績で前年比2%増を確保した。百貨店各社が前年比2ケタ近く落とした中では、独り勝ちに近い。その陰に、売り上げの3分の1を占めたPB「プアプア」の貢献があった。 水着は衣料品の中でも売り逃しの可能性が高い、難しい商品だ。ナショナルブランドの水着は発注締め切りが前年末という場合がほとんど。この時点で流行を読み違えれば挽回の機会はない。丸井が販売する水着は約1500種類。色違いを含め5000種類近くになる。2003年の販売数量は35万着だったから、安全策を取って全品を満遍なく発注すると、1種類当たり全サイズ合計で70着。これを31店(2003年夏時点)で分けると1店に届くのは1〜2着。人気が出ても、売るべき商品が手元にないという事態になる。 ところが丸井は34ページ下の写真にあるPBのドット(玉)柄水着を同じ柄で6000着も販売した。「精度の高い需要予測と小刻みな追加生産が奏功した」と営業企画部の飯田健部長は胸を張る。そのプロセスはこうだ。 仕掛けは2002年夏から始まっていた。神奈川・鵠沼海岸や東京の昭和記念公園などのプールに営業企画部の社員が“出動”。水着姿の行楽客を写真に撮り続けた。その数、1000枚以上。 「次にどんな水着が流行しそうか、生の情報を集めたかった」(飯田部長)。この結果などから11月に予測したトレンドは「ドット模様に、光るアクセサリーをつけた“キラキラ系”」。この販売の最大数量が見込めそうなドット模様を中心にPBを作ることにした。 1500種類の中からどんなデザインが流行するかの予測では、「感性」や「勘」といったバイヤーの資質だけで判断せず、徹底してお客の声に耳を傾けた。まず2003年2月。丸井のカード会員向けに催す店外バーゲンの会場に60種類の水着を持ち込み人気投票を実施。来場者10万人のうち、8000人分の票を集めた。「これだけサンプル数が多いと投票結果と商戦での売れ筋が一致する」(飯田部長)。 ナショナルブランドの水着であれば、この時点で発注をしても4月の水着売り場開設に間に合わない。だが、この発注タイミングをギリギリまで引きつけられるのがPBのメリットだ。 巧妙「時間マーケティング」 丸井はPBの生産で中国で30カ所、国内10カ所の工場と提携している。製造コストが安い中国生産は納期50日。国内は製造原価は高いが、納期が2週間と短い。両者を使い分けて、週単位で発注をかける。2月の時点で全販売量の約40%を中国に発注し、4月中旬の売り場開設に間に合わせる。 人気投票は4月の店外バーゲンでも行い、さらに売れ筋を絞った。同じ柄で色違いを並べ、色の人気を見る。その結果を踏まえ、34ページ写真の色を中心に追加発注した。これも中国生産が中心で、5月中旬の売り場拡大に間に合わせた。これ以降は、売れ行きを見て欠品が出そうなサイズを50着、100着単位で国内の工場に発注し続け、販売の機会損失を防いだ。 店による客層の違いが売れ筋にも影響する。社内配分を決めるため、5月の連休に店頭で3度目の人気投票をした。流行を予測し、売れる商品を1品でも多く作り、売る──。「お客に聞く」愚直な手法がそれを可能にした。 一方、粗利を稼げる売り場作りも加速させている。 午後4時。神奈川県海老名市にあるファミリー海老名はこの日2回目の“開店”作業に入った。 店舗の入り口に男性社員が集まり、マネキン人形4体が載った円形のキャスター付き台座をクルッと180度ひっくり返す(上の写真参照)。すると、これまで来店客を迎えていた30代以上向けの洋服を着たマネキン人形2体が入り口に背を向け、若者向けの服装をした2体が姿を現す。 店内の婦人服売り場でも、従業員が売り場の奥に並べていたキャスター付きの陳列棚をスルスルとメーン通路の前まで引っ張ってくる。棚のハンガーにかかっている洋服は、少しシャープなデザインのニット。代わりに、それまで通路際にあった落ち着いた色調のニットは売り場の奥に移動した。 「平日の場合、午前中は近隣の主婦、夕方以降は東京などに電車通勤しているOLが主力客層。その比率が逆転する時間が午後4時」と、武田喜和店長は説明する。 「ヤングの丸井」を自任する同社は今、丸井を“卒業”した30代以上のお客を取り込むことも店舗での重点課題としている。キーワードは「大人の丸井」(青井常務)だ。 このファミリー海老名を含め4店を展開中の「ファミリー」業態がその最前線となる。既存の丸井は衣料品やアクセサリーなどのファッション商品が中心だが、ファミリー業態では主婦の日常的な利用を狙って食品売り場を作り、休日に子供と一緒に来店する家族客の需要に対応してレストラン街を併設している。 1人たりとも売り逃さない 主婦や中高年向けの商品も充実させているため、インポートブランドのアーケード街がないことを除けば、商品をフルラインで揃える百貨店に近い。だが、丸井が目指すのは「品揃えの幅を広げる」という“商品ありき”の店作りではない。あくまでも「販売機会を1つでも増やし、その機会を逃さない」という発想に立った店作りだ。 ファミリー海老名では、昨年11月にハウスカードの購買データを徹底分析した。 まず、どんな年代の客層が何時に来店しているのかを「若者」と「大人(30代以上)」の分類で探ってみた。その結果、午後4時を起点に両者が入れ替わることが分かり、どちらの客層にも「自分の世代向けの商品がある」ことを訴えることにした。時間によってディスプレーを切り替える取り組みはその一環だ。 次は「各売り場の最大の得意客」を明確にするために、売り場ごとに購買客の分析を試みた。それによって、意外な結果がいくつも出た。 例えば紳士部門の柱の1つであるネクタイ売り場だ。購入客の6割が女性だった。最大顧客の女性が「こんなネクタイを贈りたい」と感じるような明るい柄を選んで展示した。するとネクタイの売り上げがいきなり前年実績を超えた。逆に女性用アクセサリー売り場は男性の購入客が3割もいたため、ギフト向けの商品を充実させた。 もちろん、大半の売り場では、「購入客=その商品を自分で使うお客」である。そのための仕掛けは、もともと丸井が得意とするところだ。 例えばPBを中心に今冬、全店でキャンペーンを展開した「白いコート」の売り場。ここには陳列商品に「素材感、風合いなどお手にとってお確かめ下さい」と書いた札をつけている。 お客は「ディスプレーは触ってはいけないもの。白い服に汚れでもつけたら何を言われるか分からない」と考える。その発想の逆を突いた。「商品に触れてもらえばお客様との会話のきっかけができ、売り場の中に入ってもらうこともできる」(武田店長)。 販売機会を逃さないための仕組みはこれで終わらない。店全体では「若者」と「大人」の区別で十分でも、アパレルメーカーのブランドショップの場合、ターゲットとする客層はもっと狭い。例えばOLの通勤服が主体のショップは閉店間際の午後7時から8時の売上構成比が最も高い。学生向けならもう少し早い時間。主婦向けのカジュアル衣料は、夕食材料を食品売り場で買う前に立ち寄るお客が多いから午後3時前後が販売のピークだ。 こうしたデータを具体的にショップごとに提示し、「機会損失のないよう、食事休憩や休暇などの勤務シフトを調整して、曜日ごとのピーク時間帯に最大の人員を配置してもらうよう要請している」(武田店長)。 この流れをお客の立場から見れば、自分の世代向けの店だと一目で分かり、自分が買うべき商品が売り場に並んでいて、商品を選ぶ時に十分な説明も受けられるということになる。 「もう『思う』『感じる』の世界で売り場を作る時代ではない」と武田店長は言う。スター商品が不在な分、これまで紹介したような「狙った複数の客層に1品でも多く売る」ための緻密な売り場作りが閉塞感を打破する。昨年8〜12月、前年比の売り上げが2%増となったファミリー海老名の売り場がそれを証明している。 縦型SC作り、駅の客を吸引 2月27日に開業する北千住マルイは、このファミリー業態と同じく、幅広い客層の取り込みを狙っている。しかし店名にあえて「ファミリー」とつけていない。ファミリー業態の概念を発展させ、11フロアで展開する「縦型のSC(ショッピングセンター)」という全く新しい店舗スタイルに挑戦するからだ。 「これまでは駅の改札口を出た人を店内に呼び込むことに力を注いできた。北千住では、駅のホームにいる人たちを店舗の中まで引っ張り上げたい」(店舗企画部の中村正雄部長) そのための策は何か。東急ハンズや手芸・ホビー店の「オカダヤ」など、趣味の要素が強いテナントを導入。ネイルサロンなど、OLに人気の高いサービス関連店舗も入居させる。これで客層ごとに奥行きの深い商品やサービスを提供できることになる。 北千住マルイでは売り方の仕組みも変える。百貨店には、複数のメーカーから商品を仕入れ、これを同じスペースに陳列する「平ひら場ば」と呼ばれる売り場がある。ブランドショップやテナントのような通路と店を隔てる入り口がほとんどなく、どこからでも入れる売り場だ。北千住マルイではこの「平場をなくす」(青井常務)。 正確には、複数のメーカーから仕入れた商品を並べる売り場は作る。しかし、その売り場は通路と仕切る壁を設け、テナントと同じショップとして展開する。そして売り場では、百貨店業界の慣例であるメーカーからの派遣社員(販売応援要員)を受け入れず、丸井の社員だけで接客に当たる。 「派遣社員は自分のメーカーの商品を売ることが仕事。お客様の関心が隣に並んでいる他社商品に移ると、途端に接客に力が入らなくなりがち。これでは顧客満足度が上がらない」(青井常務)と判断した。 PB商品を充実させ、あらゆる客層が満足できる売り場を作る。売るべきものと、その仕掛けの舞台は整った。丸井が小売りとして生き抜いていくために、あと1つ欠かせない要素がある。ヒト。現場の売り切る力だ。 水着商戦で行った売れ筋予測と発注の流れ 下の写真が6000着を売ったPB「プアプア」の水玉ビキニ。昨夏の商戦で流行した「セレブ水着」と呼ばれるジャンルに分類される。左下の写真が、ゴールデンウイーク中に店頭で行った人気投票の結果を見て主婦の多い店舗に重点配分したタイプ。PBではないが、シーズン前の予測で多めに商品を確保していた 午後4時を境に店舗入り口にある商品のディスプレーを変える。左端の写真が30代以上のお客に向けたディスプレー。右端の写真が20代までの若者に向けたディスプレー。台座にはキャスターがついているので、作業そのものは1〜2分間で完了する(ファミリー海老名) お客が商品に触れる 機会を積極的に作る ギフト対応の商品は イベント予定を表示 女性が贈りたいカラフル なネクタイを並べる 中高年にも分かりやすい 大きな字と表現を実践 セール中もスーツや パンツの裾上げ30分 「はがしやすい」 「再利用できる」張り方 |